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入れなかった屋台

サッポロすすきの夜景


いつのことだったか

はっきりとは覚えていない



先の見えない不安と孤独

癒される場の無いトゲトゲした毎日に
なげやりになっていた日々があった


仕事が終わった帰り道

近くの公園のベンチに座り
夜空をひとりで眺めていた


自分と同じ年頃の若者が
楽しそうに遊んでいる姿に

羨ましさを感じることも


そこに

毎日のように見かける屋台のラーメン屋があった

いつも同じ場所にやってきて

ひとり黙々と すべての仕事をこなして帰る


その屋台のオヤジの存在がとても温かく感じて
小さな提灯の明かりに ずいぶん癒されたものだ


お金の無いことやタイミングの悪さもあって
一度も食べる機会の無いまま
その屋台は姿を見せなくなった



ラーメンを食べると時々思い出す

あの屋台も こんな味だったかもしれないと







食べておけばよかったと、にっこり話す大将。
屋台のおやじさんも、いつもベンチでひとり座っている若造を
気にしていたのかもしれません。
言葉を交わさなくても、いつもそこにいてくれるということが
こころのちからになることもあるのですね。

| 板前と修行の世界 | 09:54 | comments:13 | trackbacks:0 | TOP↑

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寿司屋の修行 第16回 歓迎

夕焼け


今でも思い出すと、笑いがこみあげる。

あれは、大将が17歳のころ。

上京して、まだ2ヶ月目だった。




『ピンク色のパンティーを買って来い!』

『はっ?』


『飲み屋のねえちゃんにプレゼントするんだよ!
オマエが行って買って来い、わかったな!』

彼に拒む権利は無い。


先輩にお金を渡され、店を出たのはいいが、
いったいどこへ行けば、売っているのか。
とりあえず、渋谷へ。

この時の彼は、渋谷を見るのも初めてだった。



渋谷の町を、地図を片手に2時間もさまよい歩き、やっとのことで
駅の通路のようなところで下着屋を見つけた。

ここからが大変である。

当たり前の事だが、女性の店員しかいない。
男の店員を探してみたが、いるわけがない。

店の前で、悩むこと30分。
店員が怪しんでジロジロ見ている。
ますます、状況がまずくなっていく。

ここは、やるしかない!と、一大決心!

『ピンクのパンティーをください!』




玉砕覚悟で決行!
頭の中は、真っ白に。

『・・・・サイズはどうなさいますか?』怪しむ店員。

『ふ、ふ、普通で・・・・』

かなり怪しいと思われたらしく、
店員は奥に入ったまま、しばらく出てこなかったという。
このあと、やっと出てきた店員にお金を渡し、
やっとの思いで店に戻ってきたときは、全身汗びっしょり。



それを見た先輩は、



『よくやった!ご苦労さん。

オマエの度胸試しだよ。

これでお前も、俺たちの仲間入りだ。


いいか、


この世界は、度胸が大切なんだぞ。

それが信頼にもつながるんだ。

よく覚えておけ!小僧!』





先輩は大声で笑い、

彼の肩をポンとたたいた。

今でも、良き思い出である。









(この話はカテゴリー板前と修行の世界で連載しています)

| 板前と修行の世界 | 01:32 | comments:21 | trackbacks:0 | TOP↑

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寿司屋の修行 第15回 『もぐれ!』

本まぐろ


上京して半年程たった頃だろうか。

怖くて厳しい先輩がひとり。
パンチパーマで強面の、渋い人だった。

その先輩には、いつも怒られてばかり。
毎日毎日怒鳴られて、呼ばれるたびにドキドキする。

『馬鹿ヤロウ!何やってんだ!』
『もう、家へ帰れ!』
『お前、それでも板前を目指してるのか!』

毎日、こんな調子である。



ところがある時。

つけ場から呼ぶ声が。

『お前!ちょっとこっちへ来い!』

『ハイ!』


何か失敗してしまったか?
自分がこなした今日の仕事内容が、頭の中で駆け巡る。



『もぐれ!』


『・・・え?』

『いいから、もぐれ!』

『・・・・・????』

どこにもぐるんだと思いながら、
とりあえず、つけ場の下にしゃがみこんだ。

『ちょっと、まってろ。』
先輩は、ムッとしながらあるものを差し出した。



それは、1本のネギトロ巻きだった。



『食ったことないだろ。食え、旨いぞっ。』


初めて見た先輩の笑顔にびっくりしながら、

『い、いただきます!』

思わず大きな声で言ってしまい、

『バカ!声がデカイ。』



生まれて初めて食べた、ネギトロ巻き。


彼はその時、こんな旨いものがこの世にあるのかと思ったそうだ。

上京したばかりで、友達も知り合いもいない孤独な日々の中で、
厳しい先輩が初めて見せてくれた優しさと人情。

小さなことかもしれないが、とても嬉しかったことを思い出す。
あの先輩は、今頃どうしているだろう。



25年前の、蒸し暑い梅雨の日の出来事。






(この話はカテゴリー板前と修行の世界で連載しています)

昨日の寿司ストラップは、完売となりました。6個しかなくてごめんなさい。(^^;)
今、追加で2〜3個作ってお店にも置いておきます。ありがとうございました!



| 板前と修行の世界 | 10:03 | comments:22 | trackbacks:0 | TOP↑

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冬の新聞配達

20060630073445.jpg


大将が子供のころは、
小学生でも新聞配達ができた時代だった。

母子家庭の彼に、
お小遣いを稼ぐ手段はこれしかない。
当時は、そんな新聞少年がたくさんいたという。

母親に相談もせず始めた新聞配達。
10歳になったばかりの冬だった。

北海道の冬は厳しい。
マイナス10度以下はあたりまえで
鼻の中も凍ってしまうくらいだ。

まだ家族も寝静まっている早朝の3時。
自分ひとりで起きて着替えをする。
体をあたためるために、お湯に梅干をひとつ浮かべた梅湯を
いっきに飲み干して玄関を出る。

空気が静まり返り、
綺麗な新雪の上に、ザクザクと足跡がついていく。

しかし、そんな厳しい冬の配達にも
小さな楽しみができた。

お金が拾えるという事だった。

早朝の新雪の表面をよく見ると、
小さな細長い跡がついていることがある。
100円玉や10円玉は、縦になって落下するため、
細長い跡が新雪に残るのだ。

これを見つけるのが楽しみだったという少年時代。

『どんなに辛いと思う仕事でも、
その中に楽しみを見出せるかどうかが大切なんだ。
楽しみを見つけると、厳しい仕事でも続けていける。』
 

この頃に学んだことは、若い頃の寿司屋の修行時代に
大いに役立つ出来事となった。


もう、よく覚えていないが、
そのとき最初にもらった給料は、日割りで小銭程度の金額だったという。

初めて稼いだ自分のお小遣い。

10歳の彼は、それをギューッと握りしめて、
飴やガムを買うために近所のお店へ走っていった。







大将の話は右欄のカテゴリー板前と修行の世界で読む事ができます。

鮨処いちいのホームページはこちらです。



| 板前と修行の世界 | 08:31 | comments:24 | trackbacks:0 | TOP↑

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寿司屋の修行 第14回 お吸い物付きの出前

刺身だよ


お吸い物付きの出前とは?

(この話は、カテゴリー板前と修行の世界で連載しています)

『父さんは、出前をやったことがあるの?』という
息子の問いかけに、大将が話しはじめた。

出前の中でいちばん大変なのは、
お吸い物付きの出前だったという。

6人前の寿司桶を右手に持ち、
左手の指でお吸い物の汁が入ったポットを挟む様に持ち、
その上に、お盆にのせた具入りのお椀を6つ。

もちろん、一人で届けるのだ。

こんな?


ふたりで運ぶ方が簡単だが、
ひとりでやる方がロスが少なく、仕事の効率がいい。

配達先の受付嬢に『出前です。』と言って通してもらい、
7階のオフィスまで配達する。
そして、秘書室にある給湯室に向かうのだ。
ここで、出前は終了。秘書が汁を温めて出すのだ。

今は、もうやっていないだろうなあ、と彼は話す。

『当時でも、難しい出前は全部オレが担当だったよ。
そんなことは、誰もやると言わなかったから・・・(笑)
もっと昔なら、蕎麦屋が10人前持って自転車に乗る光景も
あったんだけどなあ・・・・。

出前は、そんなに遠くまで配達しない。

まず、出前の品物を持てればOKなんだ。
品物を持って、まず1メートル進んでみる。
進めたら、次は5メートル進んでみる。
それが出来たら10メートルいける。
10メートルを10回やれば、100メートルもいけるんだよ。


1歩1歩、確実に進んでいけば、
必ず目的のところまでたどり着けるんだよ、という彼の言葉に、

息子は、目を輝かせながらじっと聞いていた。







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